2273 ら特集10仙台弁護士会⑤23

平成16年10月21日 教育基本法改正に反対する会長声明
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1 中央教育審議会は、2003年3月20日、「新しい時代にふさわしい教育基本法と教育振興基本計画の在り方について」と題する答申(以下「本答申」という)を文部科学大臣に対して行った。本答申は、「21世紀を切り拓く心豊かでたくましい日本人の育成を目指す観点から、今日極めて重要と考えられる教育の理念や原則を明確にするため、教育基本法を改正することが必要である」と結論づけたうえで、教育基本法の前文及び各条文について、「引き続き規定することが適当」なものと「新しく規定することが適当」なものとを挙げ、具体的な改正の方向を示した。本答申を受けて、政府は与党内協議を重ねており、本年12月からの通常国会に上程すべく改正法案の作成作業を行っているとのことである。
 2 現行の教育基本法1条は、個人の尊厳を重んじる憲法の精神に則り、教育の目的を「人格の完成」と明記している。これは、教育が子どもの成長発達権を支援するために行われるべきであるという理念に基づくもので、世界人権宣言や子どもの権利条約にもこれと同様の規定が置かれており、普遍的な教育目的を示すものである。さらに、我が国においては特別な歴史的意義を有している。即ち、明治憲法下の教育は、天皇の言葉である教育勅語によって教育の根本的なあり方が定められ、「滅私奉公」、「忠君愛国」の理念が掲げられた。そして、「愛国心」の名の下、国家に役立ち従順に従う人間を育てるための教育が行われた。敗戦後の日本国憲法下の教育基本法は、明治憲法下の教育が戦争の惨禍の一因となったことを反省し、国家の役にたつ人間づくりの教育を排した。しかるに、本答申は、「これからの知識社会における国境を越えた大競争の時代に、我が国が世界に伍して競争力を発揮する」ために、「知の世紀をリードする創造性に富んだ多様な人材の育成が不可欠である。」とし、教育の基本目標として「21世紀を切り拓く心豊かでたくましい日本人の育成」を掲げて、教育基本法の「改正」を提言している。これは、「人格の完成」という教育の本来の目的を、国家の役にたつ人間づくりの教育へと変質させるものである。
 3 さらに、本答申は、「日本人であることの自覚や、郷土や国を愛する心の涵養」を教育の目的として据え、公教育の場において「愛国心」教育が実施されるべきであるとする。しかし、国を愛するか否かを含め、国を愛する心情の内容は、個人の内心の自由に属する問題であり、国が介入し管理・支配してはならない領域である。とりわけ、批判精神が十分に育っていない義務教育段階の子どもに対し、公教育の場で、教師から他の教科課目と並んで、「愛国心」を持つことが日本人として当然であると教えることは、「愛国心」の押し付けとなるおそれが強く、内心の自由を保障する憲法19条に抵触するおそれがある。また、公教育における日本人としての「愛国心」の押し付けは、我が国の少数民族や在留外国人の子どもたちに対する精神的な圧迫ともなる。近時、広島県、東京都等では、君が代斉唱時に起立しなかった教師が教育委員会によって処分されるという事態が生じており、教師の統制を通じて子どもや保護者に対する君が代斉唱を強制しようとする動きがある。また、2002年には、全国1100万人の小中学生に『心のノート』が配付され、その中には「愛国心」を持つことは日本人として「自然」であるという内容が記載されている。このように、本答申が提起する「愛国心」教育は既に先取りで実施されており、仮に教育基本法に「愛国心」教育が盛り込まれるならば、このような動きは一層強まることが懸念される。
 1 以上のとおり、本答申の内容は、教育の目的を国に役立つ人材作りに変容させるとともに、内心の自由を侵害するおそれがあり、憲法、子どもの権利条約及び現行教育基本法の根本理念に反する。当会は、教育が「愛国心」の名の下に国家に役立つ従順な人間作りの目的で営まれることに強い危惧を表明し、本答申に基づく教育基本法の「改正」に反対する。
2004年10月21日 仙台弁護士会会長 鹿野 哲義

平成16年08月26日 弱者の裁判を受ける権利を侵害する「合意による弁護士報酬敗訴者負担」法案に反対する会長声明
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当事者の合意によって弁護士報酬を敗訴者負担とする制度を創設することを内容とする「民事訴訟費用等に関する法律の一部を改正する法律案」(以下、本法案という)が、本年3月2日に国会に上程され、現在継続審議となっている。本法案は、訴訟提起後に双方に訴訟代理人がついている場合に当事者の共同申立により弁護士報酬の一部を敗訴者負担とすることを内容とするものである。本法案は、訴訟手続上の制度を定めるものであるが、訴訟外の契約・約款などで敗訴者負担の合意をすること(実体法上の合意)を禁じていない。このため、本法案が成立すれば、訴訟外での私的契約や約款などに「敗訴者負担条項」が盛り込まれ、これが広がっていくことが懸念される。このような合意が、事業者と消費者間の契約、使用者と労働者間の契約、大企業と中小零細企業間の契約など、力の格差のある当事者間の契約や約款に盛り込まれた場合、社会的弱者が、敗訴したときの費用負担を恐れて訴訟を提起することや訴訟を受けて立つことを躊躇し、結果として市民の司法へのアクセスに重大な萎縮効果を及ぼすことになる。本法案は、社会的弱者の裁判を受ける権利を侵害し、司法により権利救済の途を狭めるものである。司法改革推進本部司法アクセス検討会においては、合意による弁護士報酬敗訴者負担について十分な議論はなされておらず、本法案の国会上程に至る手続きも極めて問題のあるものであった。日本弁護士連合会も、上記訴訟外の合意による弊害を防止するため、私的契約による敗訴者負担条項の効力を否定する立法上の措置など抜本的対策を求めてきたが、本法案はその対策さえとられていない。よって、当会は、本法案に反対し、これを廃案することを求める。
2004年8月26日仙台弁護士会 会長鹿野 哲義

平成16年08月26日 国選弁護人報酬の減額に抗議し、増額を求める会長声明
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国選弁護人の報酬額は、2000年度から地方裁判所における標準的事件(3開廷)について、8万6400円とされ、その後2年間据え置かれてきていた。ところが、2003年度にはこの国選弁護人の報酬額が、8万5600円に引き下げられ、本年度は、さらに8万5200円に引き下げられるに至った。いうまでもなく国選弁護制度は、刑事被告人の憲法上の権利である弁護人依頼権を実質的に保障しようとする制度である。そして、現在の刑事弁護の実情は、刑事事件数の増大傾向とともに、国選弁護人が選任される比率も増大しており、実に75パーセントにも及んでいる。わが国の刑事事件は、国選弁護人によって支えられているといっても過言ではない。国選弁護人の職務内容は、私選弁護人のそれと同じである。しかるに政府は、弁護士会からの度重なる国選弁護人報酬増額の求めにも応じず、極めて低額な報酬にとどめ置いてきた。しかも、記録謄写料、交通費、通信費等の実費については、原則として支給されず、国選弁護人の個人的負担となっている。このような現在の状況は、弁護士の経済的犠牲の下に刑事弁護制度を維持しようとしているものといって過言ではない。しかも今般の刑事訴訟法の改正により、平成18年12月までには、被疑者段階における国選弁護制度が実施されることになっており、今後も国選弁護制度の適用範囲は増大し、その重要性は増していくことになる。それにもかかわらず、仮に現行の国選弁護人報酬額を基礎に被疑者段階の国選弁護報酬が算定されることになれば、国選弁護人の犠牲と負担はいっそう増大することになる。被疑者・被告人の弁護人依頼権を実質的に保障するためには、多くの弁護士が国選弁護を担当することが必要である。しかし、適正な報酬の支払いがなされず、これまでどおり経済的犠牲と負担を弁護人に押し付け続けるならば、適正な弁護活動を保障する国選弁護の担い手を確保することが困難となっていくことは必定である。適正な国選弁護人報酬の支払いがなされることは、国選弁護制度が十分に機能するための前提である。政府は、これまで極めて低額な国選弁護報酬を抜本的に改めようとせず、逆に昨年度に国選弁護報酬の減額を行い、本年度もさらに減額を行おうとしている。よって、当会は、適正な刑事弁護制度を確立していくためにも、国に対し、国選弁護人報酬の増額等を求め、以下の要望をする。
                                      記
 1.国選弁護人報酬の支給基準を、第一審標準基準事件1件あたり金20万円以上とし、そのために必要な予算措置を講ずること。
 2.事件の難度(罪質、罪数)、法廷外の準備活動、法廷内の具体的訴訟活動、出廷回数、審理期間など、弁護活動の総体に応じた報酬および日当を支給すること。
 3.弁護活動のための記録謄写料、交通費、通信費、通訳料、翻訳料等の実費全額を、本来の報酬に加算して支給すること。
2004年8月26日仙台弁護士会会長 鹿 野 哲 義

平成18年05月18日 教育基本法の「改正」に反対する会長声明
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1 去る4月28日、教育基本法の全部を改正する法案(以下「本法案」という)が国会に提出された。
2 本法案については、法案化に至る過程において、十分な議論が行われたとは言い難く、法改正の手続に重大な問題がある。本法案の元になった「教育基本法に盛り込むべき項目と内容について(最終報告)」は、2003年6月に設置された「与党教育基本法改正に関する協議会」及びその下の「検討会」において、通算70回にわたる精力的な議論を積み重ねたうえで取りまとめられたものとされるが、この間、2004年6月に中間報告が公表されたことを除いては、全て非公開にて議論が進められており、国民に向けて開かれた議論が行われたとは言い難い。「教育の憲法」とも言われる教育基本法の改正の在り方としては極めて不適切である。
3 今回の改正については、その立法事実についても重大な疑問がある。「与党教育基本法改正に関する協議会」の設置に先立つ2003年3月、中央教育審議会が作成した答申においては、「教育の現状と課題」として、「いじめ、不登校、中途退学、学級崩壊などの深刻な問題が依然として存在」することが指摘され、そのような「危機的状況を打破し、新しい時代にふさわしい教育を実現するために」改正が必要であるとされている。本法案は上記答申を受けたものであるが、上記答申後本法案提出までの間、上記答申が指摘するような教育現場の問題が教育基本法の欠陥によるものであることの検証は全くなされていない。
4 本法案は、現行教育基本法が第1条において教育の目的として掲げていた「個人の価値をたっとび」の文言を削除し、かえってその前文において、「公共の精神を尊び、豊かな人間性と創造性を備えた人間の育成を期するとともに、伝統を承継し、新しい文化の創造を目指す教育を推進すること」を謳い、教育の目標として、「公共の精神に基づき、主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養うこと」を明記している。これは、個人の尊厳を重んじる憲法の精神に則り、「個人の価値」を最大限尊重することを教育の目的に据えた現行教育基本法の理念を、「公共の精神」を養う目的のもとで後退させるものであり、極めて問題というほかない。子どもの権利条約29条第1項aは、教育が子どもの成長発達権を支援するために行われるべきであるという理念を普遍的な教育目的として掲げているが、本法案が規定する上記の教育目標はこのような教育についての世界の到達点にも反するものである。
2 また、本法案は、「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する(中略)態度を養うこと」を教育の目標として据えている。上記答申においては、「国を愛する心をはぐくむ」と表現されており、表現内容に若干の変容が見られるが、その実質において変わりはなく、公教育の場における愛国心教育を推進する内容となっている。しかし、国を愛するか否かを含め、国を愛する心情の内容は、個人の内心の自由に属する問題であり、国が介入し管理・支配してはならない領域である。公教育の場で「国を愛する」ことが当然であると教えることは、内心の自由を保障する憲法19条に抵触するおそれがある。さらに、現行教育基本法は、明治憲法下の「愛国心」教育が軍国主義という国策のための教育となりこのことが戦争の惨禍の一因となったことを反省し、平和国家建設の決意により誕生したものであるが、「国を愛する態度」を養う教育が行われるとすれば、正に時代の流れに逆行するものである。6 以上のとおり、本法案は、法案化の手続において著しく拙速であるとともに、その内容においても重大な問題をはらんでいると言わざるを得ない。当会は、「愛国心」教育の名の下に本来の教育が歪められ、国家に有為で従順な人間作りの目的で営まれることに強い危惧を表明し、本法案に基づく教育基本法の「改正」に反対する。
2006年5月18日仙台弁護士会 会長 氏家 和男

平成18年05月18日 共謀罪の新設に反対する会長声明
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2006(平成18)年5月現在、衆議院において、共謀罪新設を含む「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」の審議がなされている。当会は、昨年度までに2度にわたり、この共謀罪の新設に反対する会長声明を出した。与党は法案審議の過程で、当初の政府法案を修正する法案を提出した。しかし、この与党修正案をもってしても、当会が上記の会長声明で指摘した問題点は解決されていない。このまま立法がなされるときには市民の思想・信条の自由が侵害され、ひいては情報伝達や情報発信という自由な活動に対する萎縮効果が見込まれ、これを看過することは到底できない。まず、上記政府法案及び与党修正案の最大の問題点は、犯罪の共謀があっただけで犯罪が成立することである。現行刑法では、共謀段階で犯罪が成立するのは、内乱罪・外患罪のみであり、きわめて重大な犯罪に限定されているが、政府法案及び与党修正案では615もの犯罪について、共謀を行っただけで犯罪が成立することとになる。しかも、共謀のみによって共謀罪の成立を認めるということは、犯罪の抽象的な危険の存否すら不明な段階であっても、犯罪に関する会話や通信をしたことだけで犯罪が成立するとされる虞がある。例えば、マンション建設反対運動の話し合いをしただけで、威力業務妨害共謀罪に当たるとして逮捕される可能性があるのである。また、政府法案及び与党修正案では、共謀とは犯罪実現の意思を通じることとされており、構成要件として抽象的であり明確性を欠いている。かかる抽象的、不明確な構成要件の共謀罪の捜査においては、特定の行為だけで構成要件該当性を認定することができないため、市民の思想、信条まで捜査対象となり国民の思想信条を侵害する虞がある。さらに、共謀の事実の捜査の名のもとに捜査機関が市民の一般的な会話を傍受したり、電話や電子メールのやり取りを監視する事態も予想される。このような捜査方法が認められるならば、市民の情報伝達や情報発信という自由な活動が萎縮することは避けられない。結局、共謀罪を新設し、615もの犯罪について、その共謀のみをもって犯罪の成立を認めるということは、思想信条の自由を侵害し、民主主義を支える市民間の自由な情報の流通、とりわけ表現の自由に対する重大な脅威となるものであり、到底容認することはできない。よって、当会は、あらためて、上記政府法案及び与党修正案に対し、強く反対することを表明するものである。
2006(平成18)年5月18日仙台弁護士会 会長   氏 家 和 男

平成18年03月22日 「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律及び労働基準法の一部を改正する法律案」に対する意見書
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仙台弁護士会
会長 松  坂  英  明
はじめに
厚生労働省は平成18年3月7日,「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律及び労働基準法の一部を改正する法律案」(以下,「法律案」という。)を第164回国会(常会)に提出した。雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(以下,「均等法」という。)の施行後20年を経ているが,今日のわが国の現状は,男女平等の実現にはほど遠く,パート・派遣など非正規女性労働者の増加やコース別雇用管理などにより,逆に性差別の拡大現象すらみられる。また,妊娠・出産を理由にした不利益取扱いも多発しており,このような性差別は重大な人権侵害といわなければならない。今回の均等法改正作業は,「男女雇用機会均等の確保を徹底するため必要な法的整備を行うべき時期にきている」との認識(中間とりまとめ)に立っており,今後の公平かつ平等な社会を築く上で大きな役割を担っているものである。そこで当会は,以下のとおり,実効性ある均等法の改正が行われることを求め,法律案に対して意見を表明するものである。
第1 意見の趣旨
1 均等法の理念に「仕事と生活の調和」を規定すべきである。
2 差別的取扱いを賃金についても禁止すべきである。
3 実効的な間接差別禁止規定を導入すべきである。
4 指針の「雇用管理区分」を廃止すべきである。
5 募集・採用時における妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いを禁止すべきである。
6 ポジティブ・アクションを義務化すべきである。
7 包括的差別禁止規定を新設すべきである。
第2 意見の理由
 1 「均等法の理念に『仕事と生活の調和』を規定すべきこと」について均等法において求められる平等は,男女とも「仕事と生活の調和」の上での平等であるから,その旨を基本理念(2条)に規定し,均等法解釈の基本とすべきである。即ち「仕事と生活の調和」を規定することにより,均等法において求められる平等が,今日わが国において無限定な労働を強いられている男性を基準とすべきではなく,男女とも生活との調和のとれた働き方を基準とすべきことが明確となり,同理念が均等法の具体的解釈基準としての意味を有することになるのである。また「仕事と生活の調和」については,すでに育児介護休業法において「職業生活と家庭生活との両立」(1条)として規定されているところであり,均等法の理念としても合わせてこれを規定することは自然かつ必要なことである。
2 「差別的取扱いを賃金についても禁止すべきこと」について
現行均等法は,募集・採用(第5条),配置・昇進・教育訓練(第6条),福利厚生(第7条),定年・退職・解雇(第8条)の各ステージについて差別的取扱いを禁止し,法律案は第6条で,上記の各ステージにつき,業務の配分及び権限の付与を含む労働者の配置,降格(第1号),労働者の職種及び雇用形態の変更(第3号),退職の勧奨及び労働契約の更新(第4号)についての差別的取扱いの禁止を追加しているが,賃金も差別的取扱いの禁止項目に入れるべきである。前記のとおり,現行均等法は,賃金についての差別を禁止していないため,後記3のとおり,法律案第7条により,間接差別が禁止されたとしても,賃金に関する間接差別が規制対象から除外されることになる。しかし,賃金差別は差別の最も重要かつ切実な領域であり,これを除外することは差別是正の主要部分を除外するものと言わざるを得ないことになるので,賃金についても差別的取扱いを禁止すべきである。
 3 「実効的な間接差別禁止規定を導入すべきこと」について法律案は,第7条で間接差別を禁止するともに,間接差別となるものを厚生労働省令(以下,「省令」という。)で定めることとしているが,厚生労働大臣が労働政策審議会に対して平成18年1月27日付で諮問した法律案要綱によれば,省令で定める間接差別として,①募集又は採用における身長,体重又は体力要件,②コース別雇用管理制度における総合職の募集又は採用における全国転勤要件,③昇進における転勤経験要件の3つが挙げられている。しかし,このような間接差別となるものを限定列挙する規定は,常に現実の後追いに過ぎない実効性を欠くものとなり,また,間接差別の対象外とされた差別を法的に許容する有害な規定となる可能性を有するものである。したがって,間接差別となるものを限定すべきではない。そもそも,国際的に形成されてきた間接差別禁止法理は,一方の性に対する差別的影響が存在するときに,平等実現への障害となっている差別を恒常的に抽出し,これを除去する取組みを重要な要素として形成されてきたものである。今日,差別は「明かな」男女差別ではない形態としてあらわれるものが主流になり,また,社会的状況により差別は常に形を変える。それゆえに,男女平等を実現するため,使用者に対し,制度等の導入・遂行過程で,それが性差別的効果を生じていないか・正当事由があるかの恒常的検討義務を課し,説明責任を求めるものが間接差別禁止法理である。ところが,前記法律案要綱どおりに,間接差別となるものが3つに限定されるときは,使用者は,これらについて間接差別を禁止されるにすぎず,差別的効果を生じ平等実現への障害となっているものは何かを恒常的に抽出し,これを除去していく義務を課せられない。これは間接差別禁止法理の本質の理解を欠くものであり,間接差別禁止法理の導入は名ばかりのものと言わざるを得ないことになる。間接差別となるものが法律案要綱どおりに限定列挙されるときは,日本における間接差別禁止制度が諸外国の間接差別禁止法理と異なった不十分な制度となってしまうことになり,今後に大きな禍根を残すことになる。また,間接差別となるものが上記3つに限定されると,「男女雇用機会均等政策研究会報告」の例に挙げられている「世帯主手当」差別,パートと正社員の賃金差別も対象から除外されてしまうことになる。以上のとおり,法律案は,国際的非難を免れるためだけに形のみの間接差別禁止規定を導入するものであり,逆に間接差別を拡大する可能性をもつものであるから,間接差別となるものを限定列挙する間接差別禁止規定には反対する。
 4 「指針の『雇用管理区分』を廃止すべきこと」について法律案では現行指針(平10労告19号)が定める「雇用管理区分」を廃止せず維持するものとされている(第10条第1項)が,雇用管理区分は,差別の温床として国際的にも問題とされてきたものであり,「雇用管理区分」に法的正当性は無いので,直ちに廃止措置を講ずるべきである。
 5 「募集・採用時における妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いを禁止すべきこと」について法律案では,募集・採用における妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いは対象とされていない(第9条)。しかし,募集・採用差別についても不利益取扱いの禁止を規定すべきである。使用者の採用・契約の自由は無制限ではなく労働者の人権保障のために規制されるものであり,既に均等法において募集・採用差別は禁止されている(第5条)。本来,妊娠・出産差別は女性差別であり,その意味からも,募集・採用においても妊娠・出産差別禁止規定をおくべきである。
 6 「ポジティブ・アクションを義務化すべきこと」について法律案は,第14条でいわゆるポジティブ・アクションにつき企業が自発的に開示を講じる場合に国が援助できると規定するに止まっている。しかし,今日企業のコスト削減競争が激化する下で,企業における平等施策は一向に進んでいない。企業へのポジティブ・アクションの義務づけが必要であり,少なくとも行動計画の作成義務づけ等,既に少子化対策等で導入している手法については男女平等に関しても義務づけるべきである。差別を是正するためには,「差別を禁止する」だけでなく,「積極的な」平等実現策(教育研修や透明公正な処遇制度の構築,育児・介護支援,過去に差別を受けてきた人へのサポート等)を講じ,差別を生み出す土壌を改善し,また,女性が能力を生かせる環境づくりをすることが重要なのである。
 3 「包括的差別禁止規定を新設すべきこと」について現行均等法は,雇用の各ステージについての差別を禁止するに止まり,包括的な差別禁止法とはなっていない。法律案は,雇用の各ステージに,前記2で述べたとおり,配置における業務の配分等を追加しているが,「仕事の与え方」や「雇止め」等の差別的取扱いは追加しなかった。本来,不合理な性差別が禁止されることは判例で確立しているのであるから,包括的な差別禁止規定を設けるべきである。以上

平成18年02月17日 「拡声機の使用による暴騒音の規制に関する条例」の一部を改正する条例案に対する会長声明
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平成18年2月17日会長声明2006年02月17日
拡声機の使用による暴騒音の規制に関する条例」の一部を改正する条例案に対する会長声明
 1 新聞報道によれば、宮城県は、「拡声機の使用による暴騒音の規制に関する条例」(以下、単に「条例」という)の一部を改正する条例案を県議会2月定例会に提出するとのことである。
 2 当会は、条例の制定に先立ち、1991年(平成3年)11月20日の会長声明において、拡声機使用について規制の必要性があることは認めつつも、その規制は、憲法上保障され民主主義政治にとって不可欠な基本的人権である市民の表現活動の自由を損なうものであってはならないとの見地から、条例の問題を4点にわたって具体的に指摘した。
 3 今回の改正案は、 ①暴騒音の測定方法の変更、 ②拡声機の使用を要求する者等に対する義務・勧告規定の新設、③暴騒音の再発防止命令の新設及び④虚偽答弁者への罰則の適用の4点とされており、いずれも現行の規制を強化する内容となっている。
①「暴騒音の測定方法の変更」は、10メートル未満の地点においても音量測定可能とするものである。現行の測定方法では、測定場所が地形地物に左右されたり、測定場所が確保できなかったりする場合があるから見直しを行うとするが、改正条例の文言はそのような場合に限定する文言になっていない。これでは、測定者である警察官等が、その判断において、拡声機を使用する者の身近まで接近して音量測定をすることが可能であり、市民の街頭活動への威圧や萎縮効果をもたらすことが懸念される。
②「拡声機の使用を要求する者等に対する義務・勧告規定の新設」は、規制の対象を、拡声機使用者にとどまらずその上位の者や団体(市民団体・労働組合・政党など)さらには拡声機の所有者(管理者)に過ぎない者にまで拡大させうるものであり、規制の対象があまりに広範かつ漠然としている点で、表現活動の自由や結社の自由に対する脅威となる。
③「暴騒音の再発防止命令の新設」は、85デシベルを越える音を発している者が停止命令に従わなかった場合、警察署長が24時間以内なら拡声機使用停止等の措置をとることができるとするものであるが、事前抑制は本来仮処分等の司法的措置に拠るべきであり、法律より下位の条例で、しかも、「警察署長」だけでの判断でこのような表現の自由の事前抑止を可能とすることは立法上も重大な問題がある。
④「虚偽答弁者への罰則の適用」は、現行条例の立入調査の際の立入・調査の拒否・妨害・忌避に加えて、「虚偽答弁」に対して10万円以下の罰金を科すものであるが、立入調査の際の「虚偽答弁」とは具体的にどのような場面を想定しているのか曖昧であり処罰の範囲を不当に拡大するおそれがある。また、質問事項が広範ななかで、「虚偽答弁」を刑罰で処罰することは、結果的には、拡声機使用者の活動や背景の詳細についての情報提供を強要することになりかねず、これまた表現活動の自由や結社の自由に対する脅威となる。
 4 このように今回の改正案は、その内容においても、表現の自由や結社の自由など憲法上保障される人権について多くの重大な問題を包含しているといわざるをえず、しかも、改正を必要とする立法事実の存在も不明確であるので、当会は、今回の改正案に対しても反対せざるを得ない。より慎重かつ十分な検討を望む次第である。
2006年(平成18年)2月17日仙台弁護士会 会長 松坂英明

平成19年07月27日 光市母子殺人事件弁護人への脅迫行為に対する会長声明
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山口県光市で発生したいわゆる「光市母子殺人事件」は、現在広島高等裁判所で審理が行われています。この事件に関し、本年5月29日、日本弁護士連合会に、「その元少年を死刑に出来ぬのなら、まずは、元少年を助けようとする弁護士たちから処刑する!」「裁判で裁けないなら、武力で裁く!」などとかかれた脅迫文が、模造銃弾様のものとともに届けられました。更に新聞報道によれば、その後の7月7日に、朝日新聞社及び読売新聞社に同事件弁護団の弁護士を「抹殺する」などと書かれた脅迫文が届けられたとのことです。これは「光市母子殺人事件」の弁護団に対する明らかな脅迫行為であり、当会はこのような脅迫行為を断じて見過ごすことは出来ず、ここに強く抗議するために本声明を発表するものです。本事件は母親と幼い子の命が失われたという大変痛ましい事件であり、当会は亡くなられたお二人に心よりの哀悼の意を表するとともに、ご遺族の方の心情も察するにあまりあるものです。しかしながら、どのようにこの事件が痛ましい事件であっても被告人の弁護人依頼権は十分に保障されなければならず、その権利実現のための弁護人の弁護活動に対し、脅迫による妨害行為がなされることは決して許されるべきではありません。歴史を遡れば、刑事手続過程で不当な身柄拘束、自白の強要など、さまざまな人権侵害が行われてきました。このような歴史的事実を踏まえ、憲法は、その31条でいわゆる適正手続の保障を定め、その具体化として、37条3項において「刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することが出来る」として弁護人依頼権を保障しています。憲法が弁護人依頼権を保障しているということは、単に被告人が弁護人を依頼することに止まるものではなく、弁護人が被告人のための弁護活動を実質的に行えるということまでも保障するものです。弁護人が被告人の主張を踏まえた弁論・立証活動をすることで、被告人は初めて十分な防御の機会を与えられ、十分な主張が出来るからです。弁護人は、被告人のための実質的弁護活動を行ってこそその職責を全うすることが出来るのです。また、弁護人はそのような弁護活動をすることで憲法が保障した適正手続の保障、弁護人依頼権の保障等諸権利を実現する責務を負っているのです。もとより弁護人の弁論に対して批判等が行われること自体は、言論・表現の自由として十分に尊重されなければならないことは言うまでもありませんが、しかし、今回のような脅迫行為による弁護活動の妨害が許されないことは論を待ちません。今回の脅迫行為は弁護人の弁護活動を暴力によって封じ込め,その結果,被告人の弁護人依頼権および適正手続を保障した憲法の理念をも踏みにじろうとする卑劣な行為であり,断じて許すことができません。当会は今回の脅迫行為に厳重に抗議するとともに、今後も刑事手続にたずさわるすべての弁護士がこのような卑劣な行為に屈することなくその職責を全うできるように最大限支援していくことをここに表明するものです。
2007(平成19)年7月27日仙台弁護士会 会長 角山 正

平成19年07月18日 陸上自衛隊情報保全隊による国民監視活動に抗議しその中止を求める会長声明
ttp://senben.org/archives/464
1 本年6月6日、陸上自衛隊情報保全隊(以下情報保全隊という)が、個人・団体の動向を監視し、その情報を系統的に収集・分析していた資料の存在が明らかとなった。自衛隊が作成したとして公開された内部文書には、自衛隊イラク派兵反対運動を始め消費税値上げや医療費問題に関する運動など、個人・団体の幅広い行動の情報が詳細に記載されている。そして政府も情報保全隊がかかる情報収集活動を行っていたことを認めている。上記内部文書には、東北方面情報保全隊による宮城県を含む東北地方の個人・団体の集会、街頭宣伝、ビラ配布等の諸活動に関する情報資料が数多く含まれている。そこでは東北地方の市町村議会やマスコミの取材活動までもが監視対象とされ、情報保全隊は、これらの表現行為を「反自衛隊活動」などと位置づけている。
 2 そもそも、情報保全隊の任務は、自衛隊の保有する内部情報の流出や漏洩の防止にあり、情報収集活動はその任務に必要な範囲内でしか許されない。今般の個人・団体に対する監視・情報収集活動は、自衛隊の内部情報の流出や漏洩防止とは無関係であって、その範囲を逸脱していることは明らかであり、法的根拠を有しない違法な活動である。このように情報保全隊が組織的・系統的・日常的に個人・団体を監視してその情報を収集・分析・管理保管することは、国民の集会その他の表現活動に対し強い萎縮効果をもたらすものであるから、日本国憲法21条で保障された表現の自由を侵害するものである。また同時に憲法13条で保障されたプライバシーの権利をも侵害するものである。ことに情報保全隊は集会・デモ等に参加した個人の写真撮影も行っているが、個人の容ぼう等を公権力がみだりに撮影することは憲法13条に違反するものである(最高裁判決昭和44年12月24日)。3 日本国憲法は、先の大戦下において国家機関によって国民の権利自由が著しく抑圧されたという苦い歴史の教訓をふまえ、国家権力の濫用を抑制し国民の権利自由を保障するという立憲主義に立脚している。国家機関である情報保全隊が、法的根拠もなく、しかも国民の憲法上の権利を侵害するような監視活動を行うことは、正に立憲主義に違背する行為であって許されない。
 5 よって、当会は、政府及び防衛省に対して、陸上自衛隊情報保全隊が個人・団体等に対して違憲・違法な監視活動を行ったことに厳重に抗議するとともに、かかる監視活動を直ちに中止することを強く求めるものである。
2007(平成19)年7月18日仙台弁護士会 会長 角山 正

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